» 安藤 恒司(あんどう・つねじ)|ふじのくに ささえるチカラ

安藤 恒司(あんどう・つねじ)

地域の情熱がこもった「わが町の音」を守る
伝統の技で、郷土芸能を未来へつなぐ


あんどう・つねじ

安藤 恒司


有限会社 安藤太鼓店 代表者


取材日:2012.1.20

祭りの心意気を呼び覚ます太鼓の音色を作り続ける

 人が集まる場で、和太鼓の音色を耳にする機会は少なくない。こと、地域で催される季節の祭りや社寺の祭礼などでは、太鼓そのものもシンボルとして人の輪の中心に据えられる。町に、村に響く太鼓の音は、そこに暮らす人々の心に深く刻み込まれているのだ。
 浜松市に工房を構える安藤太鼓店。代表である安藤恒司さんは3代目として看板を守る。明治32年の創業から100年以上も続く老舗であるが、創業より前から、すでに遠州一帯の祭りの太鼓を引き受けていた。修理や張り替えの際、太鼓の胴の内側に、先々代である祖父の名が記されているのを見つけることがあるという。太鼓が多くの伝統芸能をささえている。先代の時代には静岡県知事褒賞を受賞している。
 胴の部分に使われるのはおもにケヤキ。音の響きのよさ、木目の美しさから、古来より用いられてきた素材である。太鼓の要である革は国産の牛革。1つの太鼓を仕上げるには、吟味した材料を何年もかけて乾燥させ、職人ならではの腕、勘が必要となる。磨かれた高い技術への信頼は厚い。掛川市「三社祭礼囃子」、磐田市「掛塚祭屋台囃子」など、静岡県無形民俗文化財となっている祭りの太鼓も製作。楽器メーカーを通じて全国、時には海外の愛好家やプロの演奏家から依頼を受けることもある。
 安藤さんは、何百年と続く祭りの音はその地にしみ込んでいると考えている。だからこそ、ほとんどの工程で機械を使わず手作業で「昔ながらの音」を作り出すことにこだわり続けてきた。その技術を絶やさぬよう後継者育成にも力を注いでいる。地域に根付く風習や、祭りにかける情熱は、太鼓の音色とともに次代へ引き継がれると信じているからである。





以下、インタビュー

1. 老舗の太鼓店

100年以上続く家業を継ぐために修業
その土地に根付く太鼓の音色を作り続ける

 代々続く家業でしたので、18歳で東京・浅草の宮本卯之助商店という太鼓店に丁稚として入りました。それまで家の仕事の手伝いはしていませんでしたから、ゼロからのスタートでした。そこで最低10年修業をするつもりでしたが、父の病気を機に6年半で帰郷。あとは仕事を積み重ねながら腕を磨き、今に至ります。
 祭りに使うものから長唄などの演奏、神社で使うものまで、大小、種類を問わず和太鼓なら何でも手がけます。胴や革の乾燥にそれぞれ3年ほどかかりますから、いつどんな注文があっても対応できるよう、常にあらゆる太鼓の材料をそろえています。
 日本各地に祭りがあり、その土地、祭りによって太鼓の音も違います。カーンと高い音、ドーンと響く音……。時には祭りに足を運び、音を聴くこともあります。お客様が求める「わが町の音」にぴったりの太鼓を作り、祭りを盛り上げ、喜んでいただく。それが私たちの務めだと思っています。

2. 音へのこだわりに応える

祭りを続けるため、伝統の技を守る

 掛塚祭の方々は祭りへの思いの強さから「他の組よりいい音を」と、しばしば張り替えに来られます。遠州大念仏も同じです。太鼓の音に対するこだわりには、いつも身が引き締まります。太鼓の音は、祭りのひとつの象徴ですから、祭りを続けていくためには、太鼓を守らねばならない。今でも手作業なのは、手作業でしか出せない音だからです。「安藤太鼓は音がいい」と言っていただくと、この伝統技術を絶やすわけにはいかないと思うのです。




3. 20年を経て地域にとけ込む

太鼓を通じて地域のつながりを認識
それぞれの町の情熱を次代に伝えていく

 私は太鼓職人として、太鼓を通じて皆様とおつき合いしているわけですが、近年、地域の中の結びつきが薄れているのでは、と感じることがあります。例えば一昔前は、祭り前に太鼓のひもを締めて音を調節し、終わればゆるめる、ということを各地域で行うのが当たり前でした。でも最近は、ひもの締め方ゆるめ方を知らない世代がある。伝わっていないんです、太鼓の扱い方も、祭りへの思いも。こういうことは途切れず伝えてほしいですね。私たちも声がかかれば結び方の指導に行きますし、団扇太鼓のような新商品を作るなど、幅広い世代に親しんでもらえるような取り組みも続けています。
 今、20年以上働いている弟子がおり、息子も4代目として修業を始めました。新しい世代には、物作りはもちろん、人々が太鼓の音色にどんな思いを込めているか、その情熱まで感じてほしい。そして多くの人が、自分たちの町の太鼓の音に親しみをもって大切にしてほしいと願っています。

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有限会社 安藤太鼓店

浜松市中区西浅田2-6-6 TEL 053-441-0871


安藤 恒司(あんどう・つねじ)

略歴

1971高校卒業と同時に「宮本卯之助商店」で修業を始める
1977浜松に帰り、3代目を継ぐ


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