» 名倉 光子(なぐら・みつこ)|ふじのくに ささえるチカラ

名倉 光子(なぐら・みつこ)

農村文化を郷土の人達でささえ盛り上げる
多様で多彩な行事食と暮らしを内外に発信


なぐら・みつこ

名倉 光子


NPO法人 とうもんの会 理事長


取材日:2012/11/8

美しい風景を守るために、地元の文化を守り、育てる

 掛川市南部にある「南遠州とうもんの里総合案内所」。派手な商業施設と並ぶこともなく、広々とした田園地帯に、水田に寄り添うように建っている。それもそのはず、「とうもん」とは「稲面(とうも)」「田面(たおも)」が由来といわれる水田の風景を表した言葉なのだ。美しいとうもんの姿を守るため、ここを拠点にNPO法人とうもんの会理事長の名倉光子さんが日々奮闘している。
 名倉さんは小笠町(現:菊川市)の商家から、大須賀町(現:掛川市)の農家に嫁いできた。実家と嫁ぎ先は距離としてそれほど遠くはない。しかし、実家では体験したことのない様々な風習を体験することになった。地元ならではの行事や行事食、そしてその味付け。次第に地元の農村文化の担い手となっていく中、国の田園空間整備事業が動き出す。田園空間博物館を作る計画に加わるうち、この施設で何かやりたいと思う人が集まりワークショップを重ねた。それが現在のとうもんの会の前身になった。商売屋に育った名倉さんならではの目利きと実行力で、農家の嫁仲間のめぼしい人材に声をかけ、農を楽しむ企画を実施するなどして運営体制を整えていった。
 活動では、江戸時代に南遠州の水路開発に尽力した庄屋を題材にしたミュージカルで周囲をうならせたり、地場産品の農業体験や、郷土料理の調理体験をさせたりと、地元の農村文化が誇れるものであることを浸透させていった。そして、農林水産省による2012年度の農林水産祭(むらづくり部門)で総理大臣賞を受賞した。
 名倉さんは、次世代を担う若者たちの文化活動支援にも力を注ぐ。地元ミュージシャンの発表の場としても、とうもんの里は貢献し始めている。文化の促進がとうもんを守ることにつながるという思いにあふれている。


以下、インタビュー

1. 誇るべきものがある

調べてみてわかった郷土文化の多様さ
南遠州のすばらしさを皆に伝えたい

 この地域に嫁いできて、自分が生まれ育ったところとは違うことに気付かされてはいましたが、とうもんの会で県の助成を受けて地域の文化を調べてみて、その多様さにはあらためて驚きました。ちょっと集落が変わっただけで、行事のやり方や食事が違ったりする例があとからあとから出てくる。調査した結果は「とうもんの恵み」という冊子にまとめましたが、よくよく考えると自分たちがやろうとしていることは、この豊かな南遠州の文化を大事にしようということだったんだということにも気づきました。
 組織の発足当初、種々雑多な参加者が集まったのがよかった。会議をやる前の15分間だけ、地域の歴史や文化を勉強する時間にあてました。参加者の郷土史研究家などの講義で刺激を受けて地元の歴史と文化に興味と誇りを持ったんです。「これを伝えなければならない、この文化を守っていくことが田畑を守り、とうもんの姿が守られる」という意識につながっています。

2. とうもんの独自性

半農半漁、遠州のからっ風…特性を生んだ風土

 この南遠州は海に近く、半農半漁の生活が根付いていました。そして、遠州のからっ風を利用した保存食の文化が発達したり、江戸時代からさとうきび栽培をしていた関係で、当時としては珍しい庶民にまで砂糖が行きわたっていた地域だったり、と独自の文化が築かれていく風土があったんです。日本の各地で講演に呼ばれたとき、そういう話をして、「こちらではどんな特色がありますか」って聞いて、そこの地元の人達と交流しています。

3. 人材活用

農家の嫁パワーを使って地域を活性化する

 とうもんの会の会員は女性が大半で、農家のお嫁さんたちが多い。農家の嫁さんたちは農村文化の担い手でもあるのですが、もともと経理や販売とかその他の特殊技能など、社会人として能力を身に付けた後、農家に入って、能力を生かし切れていない状態の人が少なからずいます。私はそういう人達が会の活動の中で自己能力を発揮できればと思っています。
 嫁が家にとじこもっていてはいいことはありません。家族とずっと接していれば嫌なところも見えてくる。だけどそれを発散することもできない。悪い方悪い方へといきかねないんです。同じような立場の人が集まれば、悩みも相談できるし協力もできる。奥さんの活動参加を渋る旦那さんには「会から戻った奥さん見てみなさいな。生き生きとしてるでしょ」って諭すと納得してくれます。
 もちろん家庭の事情もありますし、それぞれのモチベーションで、できる部分で参加してもらえばいいんです。そうやって仲間を増やしています。

4. 次へとつなぐ

地元で若者の文化を育てることも大事
ちゃんとやっている人をちゃんと評価する

 とうもんの会5周年を記念して『とうもんの風』というCDを作りました。私が作詞したものに、地元のミュージシャンRayneeds(レイニーズ)に曲をつけてもらいました。いま私は、若い人たちの力になりたいという気持ちが高まっています。この地域にも若いミュージシャンやその卵たちがたくさんいます。彼らは本当に一生懸命練習して技を磨き、演奏している。なのに身銭を切って会場を借りて、得る出演料はほんのわずか。そんな現状をなんとかしたいんです。
 とうもんの里の「里の秋コンサート」では、地元のミュージシャンに謝礼を払って出演してもらっています。ミュージシャン達がつながってコラボレーションできる場作りも目指しています。他から口利きを頼まれた時もちゃんと出演料を払うことを条件に紹介しています。
彼らが経験を積んで成長する場とするだけでなく、聞き手もちゃんと育てなければなりません。そのために生の音楽に触れる機会を増やすことは重要なんです。


南遠州とうもんの里総合案内所

静岡県掛川市山崎233 TEL 0537-48-0045


名倉 光子(なぐら・みつこ)

- 略 歴 -

2003総合案内所運営組織設立に向けて、地元住民らによるワークショップ開始
2004「とうもんでちゃっとやらまい会」を設立
2006NPO法人とうもんの会設立
2007田園空間整備事業による「とうもんの里総合案内所」がオープン。とうもんの会が指定管理者となる。
ミュージカル『十内圦ものがたり』上演
2008第3回協働による農山村づくり「都市と農山村協働部門」最優秀賞(県知事賞)受賞
2009平成20年度農業農村整備優良コンクール「農村振興整備部門」農林水産大臣賞受賞
2010入館者10万人達成
2011とうもんの里紹介冊子「魅力発見! とうもんの恵み」発行。入館者30万人達成
2012平成24年度農林水産省農林水産祭(むらづくり部門)
総理大臣賞受賞


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