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渋垂 秀夫 (しぶたれ・ひでお)

山あいで芸術家や子供たちが作品を作る
じっくりと美術に向き合える環境の中で


しぶたれ・ひでお

渋垂 秀夫


子ども美術工場Agora 主宰


取材日:2013/2/1

静かな山間部で様々な美術的実験が繰り広げられる

 掛川市の山間部にある「子ども美術工場Agora(こどもびじゅつこうば・あごら)」(以下、Agora)。「こうば」としたのは子どもたちが親しみを持てるようにと考えたためだ。美術教育にずっとたずさわってきた主宰の渋垂秀夫さんは、確かな目でひとりひとりの個性を見つめ、丁寧に指導する。長い活動の中では、存続に関わる危機もあった。そのたびに、子どもたちの親や、かつてAgoraで学んだ人々、共に活動したアーティストらが助力を申し出て乗り切ってきた。それも渋垂さんがこれまでに残してきたものが、かけがえのないものだったからだろう。
 渋垂さんは造形作家で、島田市の紙わざ大賞を企画するなど、美術シーンの発信に力を注いできた。日比野克彦氏や中原浩大氏といった気鋭のアーティストとも交流し、現代美術の現場に身を置いている。ほかにも会おうと思ってもなかなか会えないような芸術家がAgoraに顔を出し、子どもたちを交えながらアートの実験を試みている。
 阪神淡路大震災が起きたときは現地に行き、被災した子どもたちの居場所づくりの必要性を実感。そこから中原氏などとともに「カメパオプロジェクト」が動き出した。カメの甲羅に守られつつ、遊牧民の住居「パオ」のように移動ができる仮設シェルターを考案。その試みが東日本大震災の対応にもつながっている。
 Agoraは子どもだけでなく、伸び盛りの芸術家を羽ばたかせる場にもなっている。2010年からは「KAMEの翼プロジェクト」が始動。10年間に渡って、10人の若手アーティストを1000人のサポーターで支援しようという計画だ。2012年は、2名の若者がAgoraに滞在して作品を制作した。AGORAの環境は、街中とは違う時間の流れを作り出し、そこに居る人をじっくりとアートに向き合わせる。時間にとらわれず、ゆっくりと歩むカメのように。


以下、インタビュー

1. 創作のための空間

自然の中で人間的なスピードを保つ
時間を区切らない創作の大事さ

 芸術表現をする場合、本来は制作にどのくらい時間をかけてもいいんです。ところが、実際の美術教育の現場では完成させるまでの時間を定めてしまっている例がとても多い。僕は、時間を決めてしまうと技術しか覚えなくなってしまう恐れがあると考えています。だから、子どもたちには表現したいものが見えてくるまでずっと見続けていていいと教えています。技術を学ぶことに意味はありますが、美術に取り組むうえでもっと大事なことをなおざりにしてはいけません。
 ここは自然に囲まれていて、あわただしい街中とは時間の流れ方が違います。ゆったりと自分のペースで取り組むことができる。この建物は古民家ですが、屋根の形がカメの甲羅っぽくも見える。ゆっくりとした中で、子どもたちを守るものとも考えているんです。子ども達の作品は、壁とかに飾りっぱなしにしています。ここで学んだ子供たちが再びここを訪れた時、昔、自分がいた時間のことを思い出すことができるでしょう。

2. 最初に教えること

怖さを知ることで文化が生まれてくる

 Agoraに来る小学生に最初に使わせるのは電動の糸鋸機です。人間にとって一番大切な感覚は怖さだと考えているからです。怖さを知るところから工夫や創造、そして文化が生まれてくるのです。今は子どもを危険から遠ざけよう遠ざけようとする風潮が強まっていますが、それでは怖さを知ることができなくなります。糸鋸機は初めて触る子どもにとっては怖い存在です。その割に、実際は大きな危険はなく、入口としては最適な道具なのです。子どもたちは道具の使い方を覚えると、思うままに設計図のようなものを起こして作品を作り出します。

3. KAMEの翼プロジェクト

サポーターを募って新進アーティストを育てる
創作活動の支援は主婦や障害を持つ人も対象

 KAMEの翼プロジェクトは2010年から始めました。Agoraを象徴するカメに翼をつけて、芸術を志す若者を羽ばたかせようというプロジェクトです。2012年は中原浩大氏と日比野克彦氏の推薦を受けて、加藤元、大見明子の2人を選出、夏に1か月間Agoraに滞在して作品を作りました。
 創作に没頭できる環境を用意し、その間の生活を支え、出来上がった作品の発表の場も設けました。Agoraをやりたいことを思う存分試せる場所として提供します。芸術分野に進む若者の数が減り続けているのは問題です。この活動のサポーターが全国に広がって欲しいと思っています。サポーターは随時募集しています。
 活動で支援するのは、芸術家だけじゃありません。市井にいる様々な人達、主婦や、障害を持つ人の中にも素晴らしい美術的才能の持ち主がいます。その人が持つ才能をクローズアップして羽ばたかせたいと考えています。埋もれさせてはいけない才能はちゃんと育てなければなりません。


子ども美術工場Agora

静岡県掛川市千羽1679 <連絡先>TEL 0537-27-1428


渋垂 秀夫 (しぶたれ・ひでお)

- 略 歴 -

1991島田紙わざ大賞開催。企画者の一人として参画
1995阪神淡路大震災を機に「カメパオプロジェクト」を友人とともに設立
1996カメパオによる展示&ワークショップ「緊急の居場所-cosy」(1996.8/2~8/4, -COSY-実行委員会/くるみ幼稚園)を企画
1997掛川市に「子ども美術工場Agora」を開設
2008Agoraが土砂崩れに見舞われる。皆の手助けもあってこれを機に、納屋をアトリエ・ギャラリーに改造
2010KAMEの翼プロジェクトを発起
2011KAMEの翼プロジェクトのプレイベント開催。土井由起子、大塚朝子の2名が作品を制作・発表
高橋匡太の光のワークショップ2011
2012第1回KAMEの翼プロジェクトで、加藤元、大見明子の2名が作品を制作・発表
高橋匡太の光のワークショップ2012


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