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長谷川 俊介(はせがわ・しゅんすけ)

文化財に残る本物の畳を後世につなぐ
古来から伝わる優れた畳製作技術を研究


はせがわ・しゅんすけ

長谷川 俊介


畳職人


取材日:2013/05/08

見た目だけではわからない畳の価値を掘り下げる

 長谷川俊介さんは42歳の畳職人。職人として腕をふるうのに申し分のない年齢にある。通常業務をこなすだけでも相当な仕事量となるが、なんとか時間を見つけては古来の畳の研究にいそしんでいる。2009年に久能山東照宮「石の間」の朱縁の付け替え工事を現場付けの頭としてまかされたのも、畳に取り組むひたむきな姿勢が評価されたためだろう。
 長谷川さんが畳の世界に入ったのは20歳のころだった。すでに畳替えの作業も機械縫いがあたりまえの時代だったが、弟子入りした畳店の親方から手縫いの仕事を教えられ、畳職人としての素地が作られた。畳の本質を身体で覚えた長谷川さんは、古寺での仕事に参加した時、江戸時代の畳職人の手床(手縫いの畳床)に触れて衝撃を受ける。現代の均質化した畳とは違う、職人の個性が垣間見える畳がそこにはあった。畳替えにとどまらず畳床まで手縫いという古来の畳への興味が湧いてきた。
 畳床の製造では大正時代から機械化が進んでいたという。だから今の畳職人は、ベテランでも手床の技術を知らない。昔の畳を昔のままに補修することができずに、現代式の畳床に置き換えられてしまった神社仏閣は多い。その現状に問題意識を持った長谷川さんは同じ考えを持つ全国の職人仲間に加わって古来の畳の研究に励むようになる。数少ない手床の技術を持つ先人にも教えを請うた。
 久能山の仕事は畳縁の張り替えが主体だったが、13枚あった畳のうち、1枚が床の傷み具合がひどかった。そのまま使うわけにはいかない、かといって現代の硬い畳床に置き換えたくはない。長谷川さんの研究成果がこのとき発揮され、昔ながらの補修方法で畳床を直した。
 翌2010年、久能山東照宮は国宝に指定された。国宝の価値に触れる時、華やかな漆塗りなど装飾技術ばかりに目が向きがちだが、足裏に伝わる古来の畳のしなやかな感触はぜひ味わっておきたい。


以下、インタビュー

1. 昔の手わざ

手縫いで作られた畳床に衝撃を受ける
江戸時代の職人の技術を学びたいと動く

 畳は表面を畳表で覆ってしまうので、土台である畳床はなかなか見ることはありません。ところが昔の畳と現代の畳ではこの畳床が最も違っています。現代の畳は機械で縫い、機械で圧縮していますので、まっ平らで堅い畳になりがちです。江戸時代以前から明治時代までの昔の畳床は「手床」と言われすべて手縫いで作られました。乗ってみればわかりますが適度な柔らかさがあります。
 修行時代も畳床の手縫いはやったことがありませんでしたから、江戸時代の畳の手床を初めてみたとき、びっくりしました。いったいどうやって作るのか興味が湧いてきました。
 4種類の薦(こも)と2種の配(はい)を重ねて6層の床が作られます。分厚い藁のふとんのようなものを長い畳針であたりをつけて縫います。縫い方にも「筋縫い」と「掛け縫い」という種類があります。掛け縫いは筋縫いの倍の手間がかかります。きれいな縫い目の畳を見ると感心してしまいます。自分もこういう技術を学びたいと思うようになりましたね。

2. 研究する仲間

志が高い人と行動して知識を深める

 2003年の技能グランプリ(厚生労働省主催)に出場したとき、東京の畳職人柳井博さんと知り合いになりました。柳井さんもまた昔の畳の技術を残したいという考えの持ち主で、一緒に福島の講習会に参加し、日本で数少ない手床の技術を持つ福島県郡山の今川一芳さんから手床の作り方を体験させてもらいました。その後、TTMクラブという畳職人の研究会に参加したりして志の高い畳職人に交じって勉強させてもらっています。

3. 久能山東照宮の仕事

昔の技術を後世につなげていきたい
100年後に残る仕事ができる職人に近づく努力

 今は多くの文化財の畳が現代の畳床に入れ替えられてしまっていますが、久能山東照宮の畳は昔ながらの貴重な手縫いの畳床が使われています。丁寧な掛け縫いの畳です。私は畳縁の付け替えの仕事をさせてもらったのですが、現場で昔の畳に触れてとても勉強になりました。1枚だけですが手床を修復する作業もできて、いい経験になりました。
 私の仕事場には昔の畳がたくさん保管してあります。分解して構造を調べたり、補修の練習台にしたりしていますが、昔の職人の仕事がよくわかります。稲は1年の寿命ですが、藁が畳床に使われれば100年も持つものになります。これは日本の職人のすごい技術だと思うのです。
 私はまだ研究中の身で、練習や勉強を通常の仕事の合間を見つけてやらなければならないので大変ですが、昔の技術を途絶えさせないためにお役に立てる存在になりたいと思って技能修得に頑張っています。


長谷川畳店

静岡市駿河区小鹿1丁目56-2 TEL 054-285-1487


長谷川 俊介(はせがわ・しゅんすけ)

- 略 歴 -

1991静岡市葵区川合の松下畳店に弟子入り
1994実家の長谷川畳店で働く
1996臨済寺の竹千代手習いの間の仕事に現場付けの職人として参加
2003第22回技能グランプリに静岡県より初出場。敢闘賞受賞。畳組合の事業「田植えから始まる、畳づくり」を企画
2004静岡畳組合で手床制作の技能者である福島県の今川一芳氏を講師に講演会を開く
2005今川氏の声かけで全日畳伝統手床研究会に参加。福島県で手床の作り方を体験。久能山東照宮拝殿の畳張替工事に現場付けの職人として参加
2006東京の畳職人柳井博氏の誘いでTTMクラブ(全国的な畳の研究会)に参加
2009久能山東照宮「石の間」の絹の朱縁の付け替え工事を施工
2010TTMクラブの研修で山口県の手床技能者荒川夫妻と出合い、勉強会にも参加
2012文化財畳保存会の文化財畳保存技術研修第4期生となる
2013柳井博氏が手掛けている東京の護国寺の畳修復の仕事を見学


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