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谷川 晃一(たにかわ・こういち)

自然豊かな伊豆高原から、アートを発信
「保養地」に新たなコミュニティーを育む


たにかわ・こういち

谷川 晃一


伊豆高原アートフェスティバル運営委員長


取材日:2011/12/ 7

住民主体のアートフェスティバル

 大室山や天城連山、そして伊豆の海を臨む伊豆高原は、昔から別荘地として多くの人々を魅了してきた。緑豊かなこの地域一帯をステージに、毎年5月に開催されているのが「伊豆高原アートフェスティバル」だ。伊豆の自然環境を守り、アートを軸にしたコミュニティーづくりを目的としているもので、新緑の季節、全国から数万人の人が足を運ぶ。
 同運営委員会の会長である、画家の谷川晃一さんと故・宮迫千鶴さん夫妻が発起人となって、この試みが始まったのは1993年のこと。以来、20年にわたってアートの祭典が繰り広げられてきた。ただ、近年全国各地で開かれているアートフェスティバルと一線を画しているのは、あくまでも地域住民の運営によるものとして行政の支援を受けないこと、そしてプロ、アマチュアの垣根をなくしている点だ。
 この町に住まう人たちを中心とした参加者は、自宅や別荘、庭などを1ヵ月の期間限定ギャラリーとして開放する。1会場3万円の参加費を払い、「5点以上作品を展示する」「入場料を取らない」といった最小限の規約を守れば、参加資格は問わない。テレビに登場するような著名な芸術家が作品を展示する一方、趣味で作った手編みの作品を飾る人、コツコツ集めた自慢のコレクションを披露する人もいる。イベント前にはマップを兼ねたコラム新聞『半島暮らし』が全国の希望者へ発送される。そのパンフレットを片手に伊豆高原の自然の中、まるで親しい友人宅を訪れるような心もちで訪ね歩く。
 「保養地における住民の文化活動である」というのが当初からの運営委員会のポリシー。地域の住民が暮らしの中でひそやかに育てている芸術を掘り起こし、輝かせる意味でも、このアートフェスティバルは大きな役割を果たしている。


以下、インタビュー

1. ポリシーは自主企画、自主運営

第2の人生を歩むため移り住んだ住人たち
アートを軸に、保養地での文化活動を展開

 伊豆高原には、都市で働きリタイアした多くの人たちが、第2の人生を過ごすために移り住んでいます。私も、妻の故・宮迫千鶴もその1人です。おだやかで温暖な気候、美しい自然のうつろい、心にしみわたる静けさ――日本には数少ない「保養地」の姿がここにはあります。
 この豊かな自然環境で良質の文化を育てる、というのが伊豆高原アートフェスティバルの趣旨です。私たちは、ここに住まう自分たちの手でこの地を守り 育てたいとの理由で、自主企画、自主運営にこだわり続けています。
 残念ながら、今は日本中どこも観光地化しているでしょう。観光地は外から訪れる人に対し、そこに住む人がサービスを提供、利益を出すことを目的とします。しかし私たちは、住民の暮らしの一部として、背伸びせず、できる範囲で楽しんでいます。自治体からの補助金をもらわず、参加者からの会費のみの資金でも、20年もの間続けられているのは、そのためです。

2. プロ・アマチュアの垣根なし

コミュニティーが生む「空間芸術」

このフェスティバルを通じて住民の間にたくさんのつながり、コミュニティーが生まれています。中にはこのフェスティバルに参加したいがために転居してきた人もいるくらいです。
プロとアマチュアの垣根を取っ払っているため、参加者の9割がアマチュアです。暮らしのなかに隠れている小さな芸術を、暮らしの中で楽しみたいから。町を散策しながらアートに浸る「空間芸術」、これができるのは保養地だからこそでしょう。

3. 20年を経て地域にとけ込む

子供たちも巻き込んだ文化活動
若い世代へと理念が受け継がれる

当初56組で始まり、今では100組近くが新緑の季節に集います。参加者は毎年本当にこのイベントを楽しみにしています。互いに「主」「客」となり、それぞれ表現するものを見、会話を楽しむ。実に心地よい空間です。
首都圏だけでなく関西や九州などからも多くの人が訪れ、周辺の温泉やレストランも賑わいます。私たちの活動自体は営利目的ではありませんが、結果的に地域経済と私たちの文化活動の歯車がかみ合って、回り始めたのではないかと感じています。
中心メンバーは高齢者が多いものの、趣旨に賛同する若い世代も増えてきていますね。地元の小学校、中学校、高校まで、地域の子供たちも参加してくれます。ここは確かに環境がいいし文化度も高い。しかし、それを守るにはやはり「人」が不可欠なのです。そういう意味では、文化の担い手は着実に増えています。
観光地ではなく保養地のイベントとして、これからも受け継いで行ってほしいと願っています。

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伊豆高原アートフェスティバル運営委員会

<事務局> 伊東市八幡野1331-62 モジョモジョ内 TEL 0557-53-8533


谷川 晃一(たにかわ・こういち)

- 略 歴 -

1993第1回伊豆高原アートフェスティバル開催
 シンポジウム「保養地と文化をめぐって」
1996ツルネン・マンテイ氏講演会「アンテナ市民とは何か」開催
1997筑紫哲也氏講演会「地方文化とは何か」開催
1999雑木林と鳥の巣箱展
 池内了氏講演会「21世紀の予言は可能か」開催
2001田中康夫氏講演会「ようこそ知事室へ」ほか開催
2003コラム新聞『半島暮らし』(マップ兼用)発刊
2005『半島暮らし~伊豆高原アートフェスティバルの仲間たち』(宮迫千鶴編)を出版(木下出版)


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