» 名倉 孝(なぐら・たかし)|ふじのくに ささえるチカラ

名倉 孝(なぐら・たかし)

「笑う鬼」で切り拓いた未来への道すじ
いぶし銀に、伝統をつなぐ思いを込める


なぐら・たかし

名倉 孝


鬼秀 4代目


取材日:2011.12.16

伝統工芸から生まれた、新時代の鬼

 日本における瓦の起源は、飛鳥時代にまでさかのぼる。仏教伝来とともに百済から伝えられ、以来1400年にわたって日本家屋の伝統を支えてきた。
 静岡県では駿府城築城の折、瓦の産地・三河から職人が移り住んだのを機に、瓦の生産が盛んになったとされる。巴川、大井川、天竜川など主要な河川沿いで質のいい粘土がとれることから、瓦産業が発展。現在の袋井市を流れる太田川一帯でも「遠州瓦」と呼ばれる瓦が作られ、重宝された。
 なかでも、屋根の両端にとめおく鬼瓦は表情の豊かさ、独特の光沢から「遠州鬼瓦」としてその名を知られている。その鬼瓦を現代に守り続けているのが「鬼秀」4代目の名倉孝さんと、孫の5代目元久さんである。
 今も鬼秀では伝統技法にのっとった手作業が中心だ。粘土を練って空気を抜き、図面に合わせて紋様を描く。このとき、板状の粘土から型を取るため、鬼瓦職人は「鬼板師」と称される。ヘラなどを巧みに使って磨いた後、時間をかけて窯で焼き上げる。きめ細やかないぶし銀の鬼瓦は、浜松市にある小嶋神社の社殿、拝殿の改修を始め、数々の建築文化財の保護にも活かされており、1995年には静岡県郷土工芸品に指定された。
 戦後の最盛期には、鬼板師がこの地域だけで10軒以上あったが、今は鬼秀のみ。伝統的な日本家屋が少なくなっている現状のなか、少しでもこの伝統工芸を次代に残そうと働きかけている。幼稚園や小学校への、粘土を使った物作り指導は20年以上になる。さらに、新たな鬼も生み出した。強面で睨みつける鬼とは対照的な、愛嬌のある「笑った鬼」。「平成の笑鬼(しょうき)」と名付け、今では遠州鬼瓦の新しい顔として、多くの人の心をとらえている。





以下、インタビュー

1.次代が求めた鬼の形

伝統をつなげていくため、必要だった変化
「平成の笑鬼」が生まれたのは偶然だった

 江戸時代末期から瓦と鬼瓦を作る家に生まれ、3代目だった父親に弟子入りしたのは15歳の時です。その頃は私以外にも3~4人弟子がいました。今はガス窯ですが、当時は薪窯ですから、温度調整や、窯から出すタイミングなどは窯近くの熱さで判断します。そんな感覚を師匠や兄弟子から学び、鬼板師として腕を磨くわけです。
 鬼瓦には菊水、龍などさまざまな紋様があります。何でもそうですが、長い伝統の中で生き残るには、常識を打ち破る突破口が必要です。例えば昔、鬼面は角がない、いわゆる古代鬼面でした。それが鎌倉時代ぐらいに、角が生えた鬼が登場します。きっとどこかの職人が考えたのでしょうね。
 私にとってそれに相当するのが笑鬼でした。テレビのディレクターが鬼瓦作りを体験したとき「笑ったように見える?」と聞いたのがきっかけです。「平成の笑鬼」と名付けて、今では鬼面の表札の注文の半分が笑鬼です。

2.鬼に関わる人たち

鬼を作り、屋根に掲げる自負

 鬼瓦は家屋や社寺を守る魔除けとして、人々の頭上にあります。私にはそういう鬼を作っている自負がある。遠州瓦独特のつやが、他から「きれいな仕事」とまねされるくらい、焼きにも注意を払います。鬼板師が中心の「日本鬼師の会」で福知山城のシャチホコを作るなど、腕を磨き合うのもそのためです。そして、浜名湖花博などのイベントには積極的に出品し、鬼瓦の魅力、物作りへの思いを多くの方に知っていただけるよう努めています。




3.次世代に伝える物作り

鬼瓦を知らない世代へ受け継ぐ地域の宝
地元の子供たちに、伝え続ける

 最近は、鬼瓦を使う伝統的な日本家屋が少なくなっています。私が各地で講演したり、毎年、地元の幼稚園や小学校に出向いたりするのは、地域に根付いた伝統工芸を知ってほしいから。卒業記念に鬼瓦やペン立てを作った子供たちは何万人にものぼります。自慢なのは、作品が出来上がらなかった子が1人もいないことです。みんな自分だけの作品と、物を作った思い出が残った。これは私にとって大きな誇りですし、それによって遠州鬼瓦という工芸品が少しでも子供たちの心に刻まれたのなら、こんなにうれしいことはありません。
 今、孫が5代目として鬼板師の道を歩んでいます。時代の流れの中で携帯ストラップやポストなど、新たな需要も生まれていますので、こういうところから若い人にも鬼瓦を知ってもらうきっかけになればいいですね。もちろんそこにこれまで培った「きれいな仕事」を反映し、彼なりの鬼瓦の新たな魅力を伝えていってほしいと願っています。

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鬼秀

袋井市堀越1-1-7 TEL 0538-42-2077


名倉 孝(なぐら・たかし)

- 略歴 -

19493代目鬼秀名倉秀三氏のもとに弟子入り
1989袋井市内の幼稚園、小学校高学年「開かれた学級」講師を始める
1991森町体験の里「アクティ森」で鬼瓦工房の講師
1993JIA(日本建築家協会)静岡会長賞 受賞
1995静岡県郷土工芸品 指定
1996日本鬼師の会副会長
2000静岡県産業振興知事褒賞 受賞
2001厚生労働大臣賞 (現代の名工)受賞
2002黄綬褒章
2005袋井市建設功労賞 受賞
2006静岡県技能マイスター(しずおかの匠) 認定


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