» 静岡市立清水第五中学校(しずおかしりつしみずだいごちゅうがっこう)|ふじのくに ささえるチカラ

静岡市立清水第五中学校(しずおかしりつしみずだいごちゅうがっこう)

三保の松原に残る物語を題材に能を学ぶ
全校生徒の礼を尽くす心、郷土愛を育む


しずおかしりつしみずだいごちゅうがっこう

静岡市立清水第五中学校


講師 佐野登(宝生流能楽師シテ方):左
校長 山本薫正:右


取材日:2012/ 1/17

独自のカリキュラムを受けた子どもたちが羽衣の舞台で演じる

 日本三大松原のひとつ、三保の松原からほど近くにある静岡市立清水第五中学校。日本の舞台芸術である能を授業に取り入れている珍しい学校である。能の演目は、三保の松原に残る「羽衣の松」にまつわる羽衣伝説。全国にさまざまなストーリーで分布している物語だが、能における謡曲(ようきょく)『羽衣』は三保の松原が舞台だ。そこでは毎年10月に「羽衣まつり」が開催され、羽衣の松を鏡板に見立て、海を背景に特設能舞台が設置される。夕刻に「三保羽衣薪能」が催され、必ず能『羽衣』が演じられてきた。清水第五中学校は羽衣まつりを能授業の最終日に設定し、3年間の成果をその舞台で発表している。
 能学習の目的は、地域の文化資源を活用した日本の伝統芸能の指導により、礼を尽くす心と郷土愛を育むこと、生徒が夢を叶えるための人間力を養うことである。講師を担当するのは、卒業生である宝生流能楽師シテ方・佐野登さん。1998年、心身の発達と個性の伸長を図るために導入された特別学習の時間で、選択教科として開始したが、教職員の入れ替わりなど変革の波を経て、幾度も廃止の危機に遭遇してきた。
 2009年、現校長・山本薫正(しげまさ)さん着任の際に学習指導要領の改訂が告示されたのを機に、新たな構想が持ちあがる。「この授業を代々受け継ぐことで、能を学んだ生徒が大人になって羽衣まつりに関わり、郷土を愛する心を次の代へも受け継いでいく」山本校長は、そんな未来絵図をビジョンに大きく編成を組み直した。1、2年生が年間6時間、3年生が羽衣まつりの舞台を目標に年間14時間、全学年が地域学習から日本の伝統を段階的、体系的に学ぶものにした。その授業の最終地点が、三保の松原という羽衣の舞台である。





以下、インタビュー

1. 能の授業から学んでほしいこと

人としてあるべき心の姿勢、在り方…
その基本が詰まった伝統芸能をとおして学ぶ

佐野:能に限らず、昔から日本に伝わるものには必ず、確かな筋道と納得する理屈があります。足はどちらから踏み出し、引っ込めるか。刀はどこに差すか。元をたどればすべて「自分が動きやすいこと」を念頭に決められていて、その所作自体が、礼を尽くすことにもつながっています。日本の礼儀作法はそうできており、伝統芸能にはその素材が蓄積されているのです。何をしたら相手に失礼になるか、何をしたら嫌な気持ちにさせるか。何が相手にやさしくすることで、何が冷たくすることか。この授業はそれを知ってもらうためのもので、能だけを教えるためのものではありません。
 能における身体の軸は、心の軸。想いや精神がしっかりしていないと、身体の表現もできない。だから生徒の皆には、しっかりと目標を作りなさい、と言ってきました。能に必要なことは人にとって必要なことなのです。

2. 地域の宝・羽衣の松

羽衣伝説をベースに組みたてたカリキュラム
羽衣まつりを舞台に価値の再発見につなげる

佐野:私の祖父がいた石川県金沢市では、能楽を見ることが市民の文化として定着しています。この授業が始まる前、我が母校でもぜひそうしてほしいと清水市(現静岡市清水区)の教育委員会に話をもちかけました。しばらくして当時の校長先生から連絡をいただき、能の指導の依頼を受けました。
 授業のなかで驚いたのは羽衣の松を見たことがない生徒が多いということです。学校から歩いて5分ですよ。世間には富士山が美しく見えることでも知られている三保の松原です。行ってみたいと思わない、親御さんもそう導かない。それが残念でした。「君たちが住んでいる街にはこんなに素晴らしい場所があり、そこにこんな伝説がある。それは能でこのように表現されているんだよ」そんな気持ちで、地域の価値を伝えたい。羽衣まつりに参加することでその気持ちを親御さんにも届けたいのです。

3. 学習の成果

心の成長を促し郷土を愛する心を育みたい
やがては地域に好循環が生まれることを期待

山本:この授業では、地域の景勝地である三保の松原とその由来を題材にした能学習をとおして日本古来の文化を伝え、ふるさとを愛する心や思いやりの心、礼節を尊ぶ心を育みたいと考えています。佐野先生は、当たり前のことが当たり前にできる、人として大切な姿勢を指導してくださっています。この学びから、生徒たちが夢を育み、その実現に向けて本気で努力する意志と意欲を培ってくれればと思います。
 羽衣まつりの舞台では、3年生全員で素謡『羽衣』と自ら立候補した生徒で仕舞『羽衣』を披露します。背筋をきりっと伸ばし、凛とした表情で謡や舞いを披露する生徒の姿から、能学習による確かな成長を実感します。
 今後、ふるさとへの気持ちを育んだ生徒たちが羽衣まつりをはじめ、地域のさまざまな行事の中心となってくれることを期待しています。それが地域の一層の発展、活性化につながってほしいと思います。

.


静岡市立清水第五中学校

静岡市清水区三保1720 TEL 054-334-0034


静岡市立清水第五中学校(しずおかしりつしみずだいごちゅうがっこう)

- 略 歴 -

1999学習指導要領の移行に伴い、3年生の選択教科として能を取り入れる
2009第24回国民文化祭で3年生が羽衣を披露
2011新学習指導要領への移行に伴い、能を全校学習として授業時数に組み込む


一覧に戻る(TOPへ)